「新型と言っても、結局エンジンはプラドの使い回しなんでしょ?」
「ガワだけ変えて、中身は10年前の設計だなんてがっかり……」
もしあなたがそう考えているなら、半分は正解ですが、残りの半分で数百万円分の致命的な誤解をしていますよ。確かにボンネットを開ければ、そこには見慣れた「1GD」と「2TR」の刻印があります。しかし、型式記号だけでエンジンを語るのは、カタログしか読まない素人のすることです。
私はこれまで歴代ランクルのエンジンと格闘し、油まみれになってきましたが、250系の心臓部は「制御」と「トランスミッション」の執念深いチューニングによって、プラドとは全く異なる生き物に生まれ変わっています。
この記事では、メカニック視点で250系のパワートレインを徹底解剖します。進化した8ATがもたらす「ロックアップの快感」から、絶対に無視できない「2.7Lガソリンの物理的限界」という不都合な真実まで、忖度なしでお伝えします。これを読めば、あなたが選ぶべきエンジンがどちらか、残酷なほど明確になるはずです。
▼ この記事を3行で要約
- 型式は同じでも別物:8AT化とターボ改良で、ディーゼルの「もっさり感」は消滅しました。
- ガソリンの罠:2.7Lは街乗り最強ですが、高速道路では「軽自動車に煽られる」覚悟が必要です。
- 結論:維持費の安さだけでガソリンを選ぶと、毎回の合流で後悔することになります。
ランクル250のパワートレイン定義:進化か、枯れた技術か

結論から言いましょう。ランクル250のエンジンラインナップは、「熟成の極致」か「コストダウンの産物」か、見る者の知識量によって評価が180度変わります。
まず、日本仕様に設定された2つの心臓部を、カタログには載っていない言葉で定義し直しますね。
- 2.8L 直列4気筒ディーゼルターボ (1GD-FTV) + Direct Shift-8AT
- 真の役割: 2.4トンの鉄塊を軽快に躍らせるための、トルク特化型ユニット。
- 現場の評価: 8AT化により「おいしい回転域(トルクバンド)」を逃さなくなりました。プラド時代の「アクセルを踏んでもワンテンポ遅れる」感覚は過去のものです。
- 2.7L 直列4気筒ガソリン (2TR-FE) + 6 Super ECT
- 真の役割: 信頼性という一点突破で、ランクルへの入場券を安価に提供するベースユニット。
- 現場の評価: 世界一壊れませんが、高速道路の登坂車線ではアクセルを床まで踏み抜く覚悟が必要です。
「新しいものが良い」とは限らないのがランクルの世界ですが、この2つの性格は水と油ほどに異なります。
スペック詳細と「不都合な真実」

数値は嘘をつきませんが、真実のすべてを語るわけではありません。ここではスペック表に「現場の翻訳(毒)」を加えて比較してみましょう。特に維持費やリスクの欄は、購入前に直視すべき現実ですよ。
| 項目 | 2.8L ディーゼル (ZX/VX/GX) | 2.7L ガソリン (VX) |
|---|---|---|
| エンジン型式 | 1GD-FTV | 2TR-FE |
| 最高出力 | 204ps / 3,000-3,400rpm | 163ps / 5,200rpm |
| 最大トルク | 51.0kgf・m / 1,600-2,800rpm | 25.1kgf・m / 3,900rpm |
| 変速機 | Direct Shift-8AT | 6 Super ECT |
| 0-100km/h(参考) | 約9秒台後半 | 約12秒〜13秒 |
| 燃料タンク | 80L (軽油) | 80L (レギュラー) |
| 維持の毒 | AdBlue補充(約1000km/L)、DPF再生の手間 | 燃費極悪(実質6-7km/L)、税金同額 |
| 五感の毒 | アイドリングのトラック音、微振動 | 高負荷時のエンジン悲鳴音(4000rpm超) |
2.8Lディーゼル (1GD) の「光と影」

最大トルク51.0kgf・mは伊達ではありません。アクセルに足を乗せた瞬間、分厚いトルクの波が車体を押し出します。特筆すべきは8AT化です。ギア比がクロス(密)になったことで、1600rpm付近の最大トルク発生回転数をキープし続けられるんです。
プラド時代は6速だったため、変速のたびに回転数が落ち込み、ターボラグを感じるシーンがありました。しかし250の8ATは、「落ち込む前に繋ぐ」。息継ぎなしで加速していく感覚は、明らかに進化しています。
一方で、「音」と「浄化装置」のリスクからは逃げられません。
車外で聞くアイドリング音は紛れもなくディーゼルトラックのそれです。深夜の住宅街では気を遣うレベルにあります。また、DPF(粒子状物質除去装置)は短距離走行を繰り返すと詰まりやすく、AdBlue(尿素水)の補充も定期的に必要です。これは年間数千円のコストだけでなく、「補充ランプに怯える」という精神的コストも要求します。
2.7Lガソリン (2TR) の「限界と美学」

2TRエンジンは、もはや「生きた化石」と言ってもいいでしょう。鋳鉄ブロックの頑丈さと構造の単純さは、地球の裏側でも修理できる信頼性を誇ります。オイル管理さえしていれば30万kmなど通過点です。
しかし、物理的なアンダーパワーは隠せません。
問題は「0-100km/hが遅い」ことではないんです。「中間加速」です。高速道路の合流や、長い上り坂。ここでアクセルを深く踏み込んでも、キックダウンして「ブオオオオオン!」という勇ましい吸気音が響くだけで、速度計の針は遅々として進まない……そんなシーンがあります。
同乗者がいる時、会話がエンジンの唸り音で遮られる気まずさ。これを「遅い」と嘆くか、「エンジンを使い切る楽しさがある」と笑えるか。試されるのはドライバーの器量ですね。
大地編集長のワンポイントアドバイス

「カタログの馬力なんて飾りです」…と言いたいところですが、この250に関しては「トルクの出方」がすべてです。
私は仕事柄、両方のエンジンを何度も乗り比べていますが、ハッキリ言いますね。「高速道路での移動がメインなら、借金してでもディーゼルを買ってください」。
2.7Lガソリンの2TRは、街中を流す分には静かで平和です。ですが、家族4人とキャンプ道具を満載して中央道の長い登り坂に入った瞬間、その平和は終わります。エンジンは4000回転以上で悲鳴を上げ続け、左車線のトラックを追い越すのにも冷や汗をかくことになるでしょう。そのストレスは、価格差(約70万円)以上の精神的コストだと私は思います。
逆に、ディーゼルのガラガラ音を「不快なノイズ」と感じる繊細な神経の持ち主は、そもそもランクルに乗るべきではないかもしれません。ランクルにおけるエンジン音は騒音ではありません。「鉄の心臓が生きている鼓動」なんですから。
プラド時代からの改良点と進化ポイント(マニア向け詳細)

「型式が同じ=中身も同じ」と考えるのは、素人の浅知恵です。250系搭載にあたり、特に1GD(ディーゼル)には見えない改良が施されています。整備書を読み解くと以下の進化が浮かび上がってきます。
- ターボチャージャーの最適化:
インペラ(羽根)の形状が見直され、より低流量の排ガスでも過給が立ち上がるようになりました。これにより、ゼロ発進から過給が効くまでの「ターボラグ」が体感レベルで減少しています。 - トルクコンバーターのロックアップ領域拡大:
これが最大の功績です。多板ロックアップクラッチの制御範囲が広がり、発進直後からエンジンとタイヤが直結される感覚が強まりました。従来のトルコン特有の「滑り感(ラバーバンドフィール)」が消え、右足とタイヤが直結したようなダイレクト感を実現しています。 - 電動パワステ(EPS)との協調:
エンジンそのものではありませんが、油圧パワステからEPSへの変更はエンジンの負荷軽減にも寄与しています。アイドリング時の負荷変動が減り、回転の安定性が向上しただけでなく、レーン維持などの運転支援がエンジンの出力制御とより緻密に連携するようになりました。
海外仕様(2.4Lターボハイブリッド)との残酷な格差

マニアなあなたが一番気にしているのは、これですよね。
「なぜ日本には2.4Lターボハイブリッド(T24A-FTS)が入らないのか?」
北米や中国仕様に積まれるこの新ユニットは、システム最高出力330ps、最大トルク64.3kgm。これはランクル300系に迫る、あるいは凌駕する化け物スペックです。
日本未導入の理由(推測される大人の事情):
- 価格の壁: ハイブリッド化で車両価格が150万円以上跳ね上がれば、日本市場でのボリュームゾーン(500-700万円台)を逸脱してしまいます。
- 整備性の壁: 複雑怪奇なハイブリッドシステムは、過酷なオフロード環境や地方の整備工場での即応性を下げます。「壊れたら直せない」はランクルの美学に反します。
- 300系への配慮: 弟分(250)が兄貴分(300)より速くてハイスペックでは、ブランドのヒエラルキーが崩壊してしまいます。
悔しいですが、日本仕様は「コストパフォーマンスと絶対的な信頼性」を優先した結果、枯れた技術(1GD/2TR)が選ばれたのです。この事実を「遅れている」と嘆くか、「熟成された安心感」と捉えるかが、玄人と素人の分かれ道になりますね。
エンジンの耐久性とよくあるトラブル(予習)

ランクルを選ぶということは、10年、20万kmを共にする誓いを立てるということです。
それぞれのエンジンが抱える「持病」と、長く付き合うためのツボを予習しておきましょう。
1GD(ディーゼル)の懸念点:
- DPF(排ガス浄化装置)の詰まり: 街乗りメインだと煤が焼けきれず、高額な修理(洗浄・交換)が必要になるケースがあります。
- 尿素SCRシステムの故障: センサー類のトラブルは現代ディーゼルの宿命です。警告灯がつくとエンジンがかからなくなるリスクもあります。
2TR(ガソリン)の懸念点:
- 冷却水漏れ: ウォーターポンプや樹脂製パイプの劣化は定番です。ただし、部品代も工賃も安いです。
- オイル上がり/下がり: 30万kmを超えると発生しますが、そこまで乗るオーナーは稀でしょう。基本的に「壊そうと思っても壊れない」レベルです。
「壊れない」と言われるランクルでも、機械である以上メンテナンスは必須です。
特にディーゼルとガソリンでは、維持費の桁が変わる瞬間が必ず訪れます。その詳細なシミュレーションは、以下の記事で徹底解説しています。

さらに、日々の燃料代がどれくらい違うのか、リアルな数字を知りたい方はこちら。

よくある質問(Q&A)

まとめ:あなたの「愛機」となるのはどっちだ?

スペックオタクのあなたへ、最後に整理しましょう。
1GD(ディーゼル)を選ぶべき人:
- トルクの塊でグイグイ走る感覚に酔いしれたい人。
- 8ATによるダイレクトな変速フィールを楽しみたい人。
- メカニカルな構造(可変ノズルターボ、コモンレール)に萌える人。
2TR(ガソリン)を選ぶべき人:
- 「壊れないこと」こそが最強のスペックだと信じる人。
- 初期費用を抑えて、浮いたお金をカスタムパーツや旅費に回したい人。
- 高回転まで回して走るオールドスクールな運転を許容できる人。
【結論】迷う時間があるなら、まずは行動して現実(数字)を見ましょう

どちらのエンジンを選ぶにせよ、最大のネックは「価格」と「納期」です。
ネットでスペック論争をしている間に、納期は刻一刻と延びています。
まずは「自分の車が今いくらで売れるか(資金力)」と「実際の乗り出し価格」を確認し、外堀を埋めてから悩むのが、賢い大人の買い方です。
エンジンは悩みの種ではありません。あなたの人生を少しだけ遠くへ運んでくれる、頼もしい相棒なんですから。
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▼ この記事へのコメント
「俺はあえてガソリンを選んだ」「ディーゼルの音、やっぱり気になる?」など、あなたのランクル愛やエンジンへのこだわりをぜひコメント欄で教えてください。すべてのコメントに目を通しています!
プロフィール
大地(Daichi)
『大地のコンパス』編集長 / ランクル・ライフアドバイザー
歴代ランドクルーザー(80/100/200)を乗り継ぎ、地球12周分(総走行距離50万km超)を走破した現場主義の編集長。「ランクルはカタログスペックより、整備記録簿がすべて」が信条。自らレンチを握り、維持費の痛みからカスタムの泥沼まで、すべてを実体験として発信中。


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